Q1 SYBR Green Ⅰ、HybProbe、TaqMan Probeの利点・欠点について
A1 SYBR Green Ⅰを使用する場合はプライマーだけを作成すればよいため、実験が安価に出来るという利点がありますが、二重鎖であれば何でもくっつくため特異性が低いという欠点があります。このため、特異性を補うためにはHybProbe、TaqMan Probeの利用が有効です。
Q2 SYBR Green Ⅰのアンプリコンに対する量的関係について
A2 SYBR Green Ⅰは、らせん構造をとっている二重鎖のDNAのメジャーグルーブ(大きい溝)とマイナーグルーブ(小さい溝)のうち、マイナーグルーブに結合します。すべてのマイナーグルーブに一律に結合すればアンプリコンとの量的関係は明確になりますが、ある程度間隔を空けてランダムに結合しますので、量的関係は不明ということになります。Probeであれば1対1で結合しますので、量的関係は明らかになります。
また、同じ条件・同じ塩基配列であれば実験ごとのマイナーグルーブへの結合は変わりませんが、入り込む確率が若干変わります。同じ塩基数であっても塩基配列が変われば蛍光強度は変わります。
Q3 ハウスキーピング遺伝子について
A3 mRNAの発現量を相対的に定量するとき、定量値を標準化するためのリファレンスとして使用するハウスキーピング遺伝子は
  1. RNA特異的検出
  2. 解析する系において発現レベルのレギュレーションが無い
  3. ターゲットに対して同等の発現レベルをもつ
という条件が望ましいです。
現在、ロシュから5種類のハウスキーピング遺伝子(ヒト用)を増幅/検出するためのプライマーとプローブセットを扱っておりますので、ターゲットの発現量に応じて選択して下さい。
  •  発現レベルの低いもの:PBGD、HRPT
  •  発現レベルが中程度のもの:β2M、G6PDH、ALAS
Q4 スタンダードはどのようなものがよいか
A4
  •  PCR(出発材料がDNA、cDNA):プラスミドDNA(スーパーコイル(出発材料がDNA、cDNA)PCRの増幅効率に差が出るため、直鎖化することを推奨します)、精製したPCR産物、リファレンスDNA(ゲノムDNA)
  •  1-ステップRT-PCR(出発材料がRNA):in vitro transcribed RNA、リファレンスRNA(トータルRNA、mRNA)
などを使用して下さい。
精製したPCR産物をスタンダードとして使用する場合、定量で使用するプライマーで増幅したアンプリコンでは、末端部の分解が心配されます。スタンダードを作る際には少し外側のアウタープライマーを作ってPCRを行い、保存しておくことも有効です。
非特異的な産物が混入している場合がありますので、精製は必ず行って下さい。
Q5 RNA、DNAの抽出に関して、おすすめのものはありますか。
A5 ロシュの製品であれば、High Pureシリーズがあります。
抽出後、OD260/280で純度を測定して下さい(DNA:>1.8、RNA:>2.0が推奨されます)。
RNA抽出においてDNAの混入が疑われる場合は、DNase Ⅰ 処理を徹底して下さい。
非特異的な産物が混入している場合がありますので、精製は必ず行って下さい。
Q6 DNase Ⅰ 処理は必須ですか?
A6 プライマーの設計によってはpseudogeneをひっかける可能性があり、ゲノムの混入があると測定値が高くなりますので、なるべくDNase Ⅰ 処理を行って下さい。
Q7 RNA、DNAの精製に関して、おすすめのものはありますか。
A7 Elution BufferがLightCyclerのBufferに合うかどうかということが問題になります。ロシュのHigh Pureシリーズは相性の良いElution Bufferになっています。もしLightCyclerの実験がうまくいかない場合、精製のElution Bufferについても検討する余地があります。
Q8 臓器のウイルスを定量する場合のコントロールについて
A8 細胞の中に入り込むウイルスの場合、細胞(ホスト)のゲノムにあるシングルコピー遺伝子(β-Globinなど)を測定し、1細胞あたりのコピー数を算出して下さい。血清の場合は、精製の段階でのマイクロリットルあたりのコピー数として算出できます。
Q9 メルティングカーブが非常に綺麗な場合でも、電気泳動を行うと小さいサイズの非特異的バンドが見られます。サイクル数を減らしてプラトーに達した辺りで止めると、非特異的バンドは見られません。どう解釈すればよいのでしょうか。
A9 プラトーに達した後のサイクルで、偶然同じTm値の産物が出来た可能性があります。プライマーダイマーは通常短い断片ですが、プライマーダイマーがさらに繋がってTm値が重なる場合もあります。このような場合はサイクル数を減らし、サンプルがそのサイクルまでに立ち上がっているのであれば、その時点で止めて結果を見て下さい。
また、メルティングカーブだけで確認するのではなく、最初の実験時には必ず電気泳動を行って1バンドであることを確認して下さい。ごくまれに、メルティングカーブが1バンドであるにもかかわらず、電気泳動で2ピークになることがあります。
Q10 メルティングカーブが実験の度に温度がずれる
A10 プラスマイナス1℃が誤差範囲と考えています。それ以上であれば、サンプル精製時の塩の持込み(塩濃度によってTm値が変わるため)などが考えられます。2℃以上ずれる場合は、念のため電気泳動で確認することをおすすめします。
Q11 実験の再現性について
A11 ターゲットが1コピー~10コピー程度と非常に少ない場合、二重・三重測定することが望ましいです。また、大量のサンプルを複数回に分けて測定する場合、毎回スタンダードを測定することが望ましいです。定量解析において、Fit Point法で計算される場合、ノイズバンド(ライン)を引く位置によっては再現性が取れない場合があります。
Q12 データの再現性が信頼出来ない
A12 SYBR Green Iの場合はランダムに結合するため(Q2.参照)、その部分でばらつきが出てくる可能性があります。また、測定対象のコピー数が100以下であると、ぶれが生じてきます。コピー数が少ない場合には複数回測定し、平均値をとることが必要かと思われます。
Q13 論文では「2倍の差」などというのを見かけますが、リアルタイムPCRでは約3サイクル(3.32サイクル)で10倍程度の差ということは、2倍というのは信頼出来る値なのでしょうか。
A13 確かに、2倍の差は1サイクルの差でしかないのですが、おそらく同じサンプルを複数回測定し、その差を統計処理して有意差があると判断されたのではないかと思います。高さで見れば指数対数的に増えますが、横軸のサイクルで見れば1サイクル違えば1つのものが2倍になるということで、理論的な計算で処理されているのだと思います。
Q14 アンプリコンを長くすればばらつきが少なくなるのでしょうか。
A14 500bp以下が良いのですが、長ければ長いほどPCR効率が悪くなり、それ故に再現性が悪くなる傾向にあります。
Q15 ゲノムのコピー数は測定出来ますか。
A15 ゲノムに1つしかない遺伝子(β-Globinなど)をリファレンスにして下さい。精度を求めるのであれば、ゲノムの量は10,000コピー(50ng)程度を使用して下さい。
Q16 マグネシウム濃度の至適化について
A16 立ち上がりが早いこと、ダイマーが出来ないことが条件となります。